過去のアホ話その21〜




 アホ話その21から始まります。
 (注)この物語はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません。

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アホ話その21(1998.11.14.)

「あちゃー!」
給湯室から聞こえてきたのは悲鳴というより拳法家の叫びに近いものがあった。職場内に声が駆け巡ると、空気が一瞬停止し、次いで冷めた笑いの合唱となった。かぶりを振るものまでいる。気になった妙子さん(仮名)が給湯室へ行くと、そこには水道水でひたすら指を冷やし続ける柴田(仮名)の姿があった。
 数分後、痛みをまぎらわすかのように右手を振りながら柴田は席に戻ってきた。人指し指に白い水膨れが出来上がっている。
「いやあ、やっちゃったよ」と、ひとりごとのように言いながら水膨れに息を吹き掛けている。
「はい、これ」妙子さんは自分のバッグから絆創膏を取り出すと柴田に手渡した。ピンク色の、キティちゃんの絵柄が入ったものだ。
「最近そういうキャラクターものが多いんだねえ」と私は妙な感心をしながら絆創膏を眺めた。
「これ結構いいよな。ポケモンとかドラえもんなんてのも、多分あるんだろ?」
「うん、これが一番可愛かったから買っちゃった。柴田くん、もう1枚あげるね」妙子さんは嬉しそうにバッグから箱ごと取り出して見せた。キティちゃんのノートパソコンや携帯電話も出回っているのだ。絆創膏ぐらいでは今さら驚かないが、しかし結婚式の引出物にキティちゃんの土鍋やカマボコが配られた、などという話をどこかのテレビ番組で聞いて、私は頭を抱えた憶えがある。
 こうして目の前の絆創膏を手始めに、キティちゃんの版権収入を狙うサンリオ社の陰謀は、まさに一億二千万総キティ化現象を巻き起こした。
「絆創膏があるなら包帯だってありそうだな」私は半分あきれながら感想を述べた。柴田が続ける。
「他にも考えられるぞ。キティちゃんのサロンパスだとか、キティちゃんのリポビタンD、キティちゃんの白衣に、キティちゃんの聴診器、キティちゃんのメス、キティちゃんの注射器」
「なんなんだ、そのメスとか注射器ってのは」
「キティちゃんのお医者さんセット。ちなみにR指定」
「さっぱり想像できん」
 次いで話題は食べ物に移る。キティそば・うどん・ラーメンなどは言うに及ばず、キティジンギスカン、キティちゃんこ、ノーパンキティしゃぶしゃぶ。なんなんだそれは。しかし柴田のキティ攻撃はとどまるところを知らず、次々と新手の技をくりだしてくる。食後のデザートには名物キティ八ツ橋、キティずんだもち、キティ山親爺、はてはキティ赤福にいたるまで。ここまでくると訳がわからない。
「今こそ、ナウな都会のヤングはキティライフをエンジョイしなくちゃ」
死語の羅列でなにがヤングだ。
「ゆりかごから墓場まで。キティちゃんの福祉国家論も捨てがたい」
「そんな国は滅んでしまえ。それよかキティちゃんのジャンボジェットだとか、Jリーグのユニフォームにキティちゃんとか、そっちの方がよほど考えられるな」
サンリオがキャラクター版権で稼ぐばかりでなく、派手にジェット機広告を打ち出したりJリーグチームへ経営支援をするなどは、可能性が決してないとは言い切れない。
「じゃあキティちゃんの車って、ないのかな」というのは妙子さん。
「たしかダイハツから特別仕様車が出ていたはずだぞ」
そんなものまで出ているとは。知っている柴田もだが、妙子さんの思いつきも時々当たるから油断ならない。ところでサンリオの営業車というのは、やはりキティちゃんの派手なピンク色なのだろうか。ふと疑問に思ってしまう。
「どうせだから自衛隊の戦闘機もキティちゃん仕様にする」
「またおまえはそういう無茶をいう」
「そんなことはないぞ。ノーズペイントといって、戦闘機の頭の部分に狼とかサメの絵が描いてあるだろう? あれだよ、あれ。だからF−15なら『キティイーグル』とかさ」
「そういやそんなのもあったな。だがキティちゃんは似合わん」
「サンリオも次は防衛産業に進出しないと」
聞けよ、人の話を。
「たとえば、90式キティ戦車。ピンクの迷彩で敵の目を惑わす」
「真っ先にやられそうだな。しかも自分自身まで惑わしてるし」
「多目的情報収集衛星『キティ』」
「あるかそんなの」
「戦域キティちゃんミサイル防衛構想」
「“ちゃん”までつけるな、“ちゃん”まで」
「それじゃあ調達実施本部がキティちゃんの事務用品を大量発注する」
「防衛官僚がサンリオに天下りするか」
次々と想像しにくいことばかり言ってくれる。
「で、防衛するのがキティちゃんなら、攻撃する方もキティちゃん」
「攻撃する方?」
「北の国へ出資してテポドンの次世代機『キティドン』」
「ないよ。しかも思いっきり言いづらいし」
「核開発支援で『キティ軽水炉』もいいな。原発の見かけはでっかいキティちゃんの人形で、テーマパーク風にすれば平和な施設に見える」
「おいおいおい」
ツッコミと称する私の査察すらも逃れ、柴田の発言が臨界点を突破するのはもはや時間の問題となった。そして次の瞬間「キティちゃんのキノコ雲」に発言がおよんだとき、妙子さんはもとより、私まで会話から置き去りにした柴田の脳はついにメルトダウンを起こし、さらに暴走する言動はまさにキティシンドロームの様相を呈していた。


(注)この物語はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません。断じて、ありません。

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