蛇足的概略?
セッションno.9 前:おわりのはじまり

 真棹秤子がファイルケースを片手に Bar タリウス居住部居間に踏み入ったとき、休憩中のバーマスターはソファーに浅く腰をおろした姿勢で白い便箋に視線を落としていた。
 テーブルのガラスの天板のうえには郵便物が選り分けられている。ひとつの山の一番上に封の切られた封筒が見えた。シンプルな薄いブルーの封筒に印刷されている社名は、この1年強のうちにすっかりなじみになってしまったものだ。
 ひとつ溜息をついてファイルケースを抱えなおす。どうやら弟分の仕事結果を待たずに事態は動き出してしまったらしい。
「ほれ」
 後ろに回ってエリシュの頭を小突く。振り向いた苦笑いの顔にファイルケースを差し出し、秤子はソファーに手をついた。
「遅かったみたいやけど」
「そんなことはないですよ。これからのことですから」
 エリシュのいつもと同じ表情で日常とは異なる緊張を瞳に浮かべた横顔から、ファイルを辿る指先に視線を落とし、秤子は眉を寄せた。
 有限会社 SEMPIS を中心としたシャイアーテックス関連企業の、人事と資金の流れを追ったレポート。分厚いそれの最後のページにおまけのように貼られたメモを見遣って、エリシュの苦笑が深くなる。
 ―― 数カ月内に株式発行の動き。
「夏の事件、痛み分けかと思っていましたけど」
 どうやらそうではなかったらしい。半年のうちにこちらに手を出す余裕が『上』に出来たということか。いつか決着をつけるにせよ、もう少し頑張って欲しかった、とは口に出せない。
「縺さんに調査の続行をお願いします」
 そう秤子に告げて、エリシュは白い便箋をテーブルに滑らせた。
 典型的なビジネス文書の書式。日付けとエリシュの姓名の下に、簡潔な一文と署名。
 ―― 本年三月末をもって終了する契約の非更新をお知らせ致します。
 部署も役職もなく、そこにはただ『神取智契』と綴られていた。


 誰の望みか誰の掌の上かも関わりなく ── end game は動き始める。


*裏かつ表*