雨竜沼湿原とは?

雨竜沼湿原の概略


登山道沿いで見る清流

巨大な浮島


登山者で賑わう夏の湿原
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 雨竜沼湿原は、国内では日光の尾瀬につぐ規模を持つ ( 池塘を有する山地の高層湿原として ) 山地高層湿原です。地理的には北緯43°41′48″、東経141゜36′30″にあり、南暑寒岳の東面 、群馬岳と恵岱岳の狭間に広がる標高850mの溶岩台地上に存在しています。湿原本体は東西2km、南北1km程の大きさですが、周囲に散在する十数個所もの小湿原を含めると、東西4km、南北2kmを超える広さと言えます。

 悠久の年月は長い冬と短い夏を繰り返し、それは見事な花と水の楽園を形造って来たのです。特に湿原性・高山性の豊かな植生は、ペンケペタン川に沿った渓谷の登山道から湿原域を越え、遠く暑寒別岳へと続く花の街道を形成し、訪れる者の心を捕えて離しません。登山道に沿って普通に観察できる花数は、南暑寒荘から南暑寒岳までの間で約200種以上になります 。暑寒別岳には以前からマシケゲンゲ、マシケオトギリ等の特産種が報告されていましたが、雨竜沼湿原では特産種の報告は有りませんでした。しかし、2005年2月にオゼコウホネの一品種としてウリュウコウホネの報告が行われ、雨竜の名を冠した初めての植物が誕生しました。池塘を彩るエゾベニヒツジグサ等の浮葉植物や、中間湿原に群落を形成するエゾカンゾウ、タチギボウシ等は、見応えのある山岳湿原としての美しさを呈しています。

 湿原には大小700以上もの池塘が点在し、それらもまたこの湿原の大きな魅力の一つとなっています。直径数十cmから大きなものは100mにもなりますが、美しい円形を成すもの、複雑な形状で指紋状に連なるものなど、その形態は実に多彩です。特に、計ったかのような真円形に近い池塘が多数散在することが、世界的にも稀な湿原景観であると指摘されています。ある池塘には、全長25mにも達する巨大な浮島が存在しており、山地湿原の持つ特殊な自然環境を垣間見ることができます。現存するこれらの池塘は、湿原形成の過程から今日まで、全く大自然のリズムに任せられたものであり、まさに高層湿原の標本的景観と良好な保存性を物語るものです。
 泥炭層の堆積は平均で3〜4mあり、泥炭最深部の年代測定により、約1万5000年に及ぶ湿原形成の歴史が報告されています。それらの雨竜沼湿原に蓄積された豊かな泥炭層に内包される、気候や植生に関する連続的な自然変遷史的資料は、北海道や日本北部のみならずアジアの東部までをも包括する、貴重な学術資料としての価値を有するものと考えられます。

 野生動物を見ても、エゾヒグマを始めとする大型の陸生哺乳類や、種々の野鳥類等、多くは北海道の他の山地で普通に生息する種ではありますが、雨竜沼湿原を含むこの増毛山地一帯でも豊かに息づいています。

 特に昆虫類の世界では、この山域はまだまだ研究面では手付かずの状態にあると言えます。最近暑寒別岳では大雪山に生息する高山昆虫の存在が報告されていますし、雨竜沼湿原周辺でも今後この分野の調査・研究に期待が持てます。

 雨竜沼湿原を含む増毛山地一帯は1990年に「暑寒別・天売・焼尻国定公園」としての指定を受け、特に雨竜沼湿原全域は「第一種特別保護地域 」として、以後同公園の重要な自然環境要素として認められています。それまでは「暑寒別・天売・焼尻道立自然公園 」としての位置付けでしたが、雨竜沼湿原などはあくまでも尾瀬のレプリカのような口込み宣伝しか行なわれていませんでした。幸か不幸か、深山幽谷の立地条件も加味して、1970年代後半頃までは一部の愛好者のみが訪れる静かでおおらかな時代でした 。ところが、折からのアウトドアブームや国定公園昇格、ラムサール条約国際会議の日本開催などの影響もあってか 、現在では年間2万人もの登山者が訪れるほど知名度は高まりました。

 2004年には北海道遺産として登録が実現し、2005年には山地湿原としては世界初のラムサール条約の登録湿地に加わります。山地湿原としての知名度は国内以上に世界へ向けて高まりつつあります。




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