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水無月慧子の万華鏡掌編小説1/  花神(かしん)

花神
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 新年早々、自転車で買い物に出かけた帰りに自転車ごと倒れて足を挫き、くしゃみをしたら鎖骨を骨折し、左の五十肩はもう半年も患っているのに治る兆しなし。まったくついていない一年だった。明子はクリスマスケーキを前に、一人で溜め息をついた。

 結婚したのは友達の中で一番早く、二十歳のときだった。相手は一回り年上の消防士で、夫というより兄のような存在で、明子はもうすっかり頼り切っていた。職業柄、いざというときの心構えだけはしておくんだよ、と夫に言われていたが、それはごく一部の運の悪いひとのことだと思っていた。そうしたら、夫は結婚一週間で殉職してしまった。それから三十年近く経つ。結婚を申し込んでくれるひとは少なからずいたが、亡夫の人柄に太刀打ちできる男性はいなかった。

 クリスマスケーキを囲んだのは、亡夫との一度きりの思い出だ。明子は箪笥の奥にしまってある小さな箱を取り出した。正面がセロファンになっているので中が見える。身長十五センチくらいの人形だった。

――ちょっと子供っぽいプレゼントだったかなあ。明子みたいに華奢で可愛いだろ。どっか外国の民芸品みたいだよ。なにかの植物の皮で出来た花の精だってさ。
――へえー。ありがとう。青い服を着ているのね。髪も水色だし。なんの花の精?
――たしか、チューリップの精だったよ。他にもいろいろあったけど、これが一番明子に似合いそうだったから。
――うん。ありがと。青いチューリップかあ。実際はないよね、青いチューリップ。
――そういや、どうかな。最近は品種改良が進んでるからなあ。

 明子はケーキを食べながら、夫との思い出に浸った。そして、いつものように、こたつに入ったまま寝てしまった。

 水色の髪の小さな妖精が飛んでいる。ひとりぼっちで、仲間にはぐれたんだろうか。青いスカートのふくらみが、チューリップの花を思わせた。あなたはだあれ、と聞くと、ただ、にっこり笑って左肩に降りてきた。そこ痛いのよ、五十肩だから。と言っているのに妖精はにこにこしながら肩に腰かけて足をぶらぶらさせた。

 明日には、五十肩が良くなっているかも。ふと、そんな気がした。

(完)

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