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理科教育ニュース3本立て


北海道函館東高等学校 渡辺儀輝




少年写真新聞社が隔週で学校へ送っているポスター「理科教育ニュース」はご存じですか?
理科の実験の手法がポスターで掲載され、実験プリントと解説が付いています。その解説原稿を3本執筆しました。ごゆっくりお読み下さい。
タイトルをクリックすると、少年写真新聞社のページに掲載されている実験ポスターへ外部リンクします。


 

熱で回転する輪ゴムエンジン


ゴムは熱を加えるとなぜ縮むのか?

 金属などは一般に熱を加えると金属原子の熱運動が激しくなり、体積が増えるのですが、ゴムは逆に縮みます。東南アジアにあるゴムノキの樹液であるラテックスの中にはイソブレンという分子があり、それが付加重合によってつなぎ合わさりポリイソブレンへ、そしてその直線的な長い分子を硫黄原子がつなぎ止めているのが「輪ゴム」なのです。輪ゴムは立体網目構造になっていて弾性がとても大きくなるのですが、熱運動が活発になると分子が折りたたまれようとします。これがゴムが縮む原因です。

なぜ輪ゴムエンジンは回るのか?

 電球があたっている方は熱放射により、電球の光エネルギーが熱エネルギーに変換され、輪ゴムが縮みます。すると重心のバランスがくずれ、少し回転します。電球が当たらないとこるにくると、今度は冷やされ輪ゴムがのびます。再び電球があたると縮みます。この暖め・冷やし・暖め・冷やし・・・が繰り返されることで輪ゴムエンジンは、光をあて続ける限り回るのです。このような熱の出入りのサイクルで何回も回り続けるものを「熱機関」といいます。

熱機関の研究の歴史

 水を加熱すると水蒸気になります。この水蒸気を加熱して膨張させ(ピストンを押し上げ)、水蒸気を逃がして収縮させ(ピストンを下げ)を繰り返す、蒸気の熱機関を初めて作ったのはイギリスのニューコメンです。しかしこれは効率が非常に悪く(1分で10往復程度)、それを改良したのがワットです。たちまち蒸気機関は様々な分野に活用され、工場制機械工業の時代の幕が開きました。イギリスはこれにより産業革命に成功したのです。今でも大英博物館にはワットの蒸気機関が大切に保管され、元気に動いています。  熱から仕事を取り出すこの熱機関の研究から熱と仕事はみかけが違うだけで、本質は同等であることを水をかき混ぜる装置を使って証明したのがジュールです。また、カルノーは、どれくらいの熱エネルギーを与えると、どれくらいの仕事ができるのかを、丁寧に計算し、熱効率について1824年に「熱をすべて外へ捨てないで、燃料の熱を100%仕事に変えて、連続運転が可能な機械は存在しない」という偉大な熱力学の第二法則を提唱しました。  このような熱効率をいかに上げ、少ない燃料で、できるだけ長く動くか、ということは、今でもエンジンを設計する人たちにとっては世界を相手にした熾烈な戦いの場でもあります。またこの熱機関の研究から、乱雑さを表す「エントロピー」の研究へ、分子運動の研究へ、最先端の複雑系科学の研究へ、と様々な分野に広がっていきました。輪ゴムエンジンの回転を見ながら、人類が歩んだ熱とは何か?を探究した歴史に思いをはせてみてはいかがでしょうか?





 

冷凍庫で透明な氷作りに挑戦


熱伝導と断熱

 物質を作っている原子・分子はすべて小刻みに振動しています。これを熱運動といい、その運動の度合いを「温度」といいます。高温物体と 低温物体をくっつけると、熱運動による原子の小づきあいが順々に伝わっていくので、熱は広がっていきます(=熱伝導)。熱伝導をしゃ断す る(=断熱)には、それらの間に振動を伝える原子や分子の少ない状態、つまり空気があればいいですね。ちなみに真空にするともっと効果が あがります。これが魔法びんの中のお湯が冷めない理由なのです。

なぜ氷は透明になるのか

 水を冷凍庫に入れると、周り全体から凍るので、水の中にわずかに溶け込んでいる空気が中心部分に押し込められながら凍ってしまいます。 このために氷が白くなるのです。しかし、熱伝導をしゃ断する空気シートや、中が空気だらけの発泡スチロール(断熱材)で、横と底をおおう と、水は上から凍り始め、中に溶けていた空気は下へ下へと追いやられていき、穴をあけた部分から、少しずつ外へ出ていきます。こうすると 空気の閉じこめられていない透明な氷ができあがります。湖や池の氷が透明なのも、冷える方向が上からだけで、横が土などで断熱されている からなのです。断熱材を使って冷やす方向をコントロールできるのです。

身近な断熱現象

 夏に、日光が地面にあたり、あたたかな空気のかたまりが周りの空気と断熱しながら上昇すると、ぐんぐん成長し積乱雲になります(=断熱 膨張)。またピストンの中の空気を急に押し縮めると、断熱されたまま中の温度が上がり発火します(=断熱圧縮)。これがディーゼルエンジ ンの原理です。家の周りにも、空気がたくさん入っている断熱材が使われています。断熱という現象ははみなさんのとても身近なところにある のです。

熱についての研究の歴史

 昔、熱は「熱素(カロリック)」と言う元素のひとつだと考えられていました。そんな中ランフォードは、鉄の棒の中をくりぬく時の発熱か ら、この熱素説に疑問を持ち始めました(1798)。しかし時代が早すぎ、当時の科学者達はこの考えをしりぞけ、熱素の存在をうたがうことも しなかったのです。しかし、フーリエ、カルノー、マイヤーの様々な熱の研究、そして水1gを1度あげるのに必要な熱量1カロリーは、4. 2ジュールのエネルギーと同じである、というジュールによる仕事当量の測定(1843)がなされ、ついに熱は元素ではなく、エネルギーの一種と して考えられるようになりました。しかし、原子や分子が存在し、それらが小刻みに動くという熱運動の本当の正体が科学的に証明されたのは 20世紀になってからで、そこまでにはとても長い時間と、マックスウェル、ボルツマン、アインシュタインなどの天才達の命をかけた研究が あったのです。熱の研究に情熱を傾けた科学者達をぜひ調べてみてください。





  

重心が支点の位置にあるマクスウェルのこま


こまとジャイロ効果

 こまの動きについての研究は古くて新しい問題で、今でも理工系大学の教養物理学の問題としてよく取り上げられ、学生の頭を悩まし続けています。こまはただ立てておいても倒れるだけですが、ひとたび回すと安定して回り続けます。こまを回すと円板に遠心力がかかり、みんなで外へ外へとひっぱっていることと同じ様な感じになるのです。ですから多少回転する軸がずれたとしてもすぐもとへもどろうとします。回転するものが安定しようとするこの性質のことを「ジャイロ効果」といい、最近では波のゆれがはげしい中を進むモーターボートの中や、でこぼこ道を進む車いすの中に重さの大きなこまが入っていて、ジャイロ効果によって安定を保つことができるように工夫されています。

こまと歳差運動

 こまを斜めに向けて回転させると、軸がゆっくりと回転を始め、これを「みそすり運動」または「歳差運動」といいます。こまは接点(軸と床がくっついているところ)より上に重心があります。重心というのは、どんなものにもあり、その1点でものをバランスよくつりあげることができる点のことをいいます。地球の重力は、この重心に下向きにかかっていて、こまはその重力によって下にひっぱられます。接点で床からこまを支える力(垂直抗力といいます)と大きさは同じで、力の向きが逆なのはいいのですが、2つの力のはじまりである支点の場所が違うのでバランスがくずれ、こまはジャイロ効果によって起きあがろうとします。この起きあがる力が内側を向く向心力(遠心力の逆向き)となり、歳差運動をはじめる原因になるのです。右手でこまを時計回りに回転させると、歳差運動はこまの上から見ると時計回りになります。

マクスウェルのこま

 では接点にちょうど重心があるようなこまはないのでしょうか?これが今回の実験でつくったマクスウェルのこまです。接点と重心が同じなので、床からの垂直抗力とこまにかかる重力が、同じ力、反対の向き、同じ支点でしっかりつりあうのです。こうすると歳差運動はおこらず、重力の影響を受けないので、いつまでも軸を安定させながら回転することができるのです。もしいつまでもまわるマックスウェルのこまがあったとしたら、宇宙に対して一定の方向を向いて回っているので、地球上でそのこまを観察すると、地球が自転している証拠を見つけることができます。このこまはイギリスではトレミー(プトレマイオス)のこまと呼ばれていますが、重さのバランスを自由自在に変えることができるこまをはじめて作ったイギリスの物理学者の名前をとって、マクスウェルのこまと言われています。みなさんが高校生になったら、戸田盛和先生の書かれた「コマの科学(岩波新書)」をぜひ読んでみて下さい。こまについて非常に詳しくわかりやすく書かれています。

マクスウェルについて

 マクスウェルは19世紀後半に活躍したイギリスの物理学者で、こま以外に、円板に3色を塗って回転させ色の研究をしたり、同じイギリスのファラデーが考案した電気力線・磁力線・電磁誘導などを、天才的な数学の能力で4つの方程式へ数式化し、さらにその方程式を解き、まだ発見されていなかった電磁波の存在を予言した人物なのです。電磁波の存在はドイツのヘルツの実験によって確かめられ、マルコーニらの手によってまたたくまに通信分野へ応用されていきました。またこの4つの方程式の特徴から、光速度不変の原理がうまれ、マイケルソン、モーレーによって確認され、アインシュタインによって特殊相対性理論が完成し、宇宙の研究の第一歩がはじまったのです。こまの動き、それは調和する宇宙の動きなのかもしれません。